第26章 大人の社会科見学【一松】
「ええ、まあ……。今日はこういう場なので、やってあげましたけど、園ではできるだけ自分でやれるようにまずは声をかけて見守るようにしています」
質問の意図が分からないまま、正直に答える。
「なんだ……いつも着替えさせてくれるわけではないんですね……非常にがっかりです……」
一松さんはしょぼんと俯いて離れていった。
え……? 今の何……? 何でがっかりされたの?
意味が分からず呆然とする。何だろう、すごく気持ち悪い。
そんな私には構わず、一松さんは部屋の隅からホワイトボードを出してきた。
「さぁて、みなさん。もうちょっとお勉強しましょうか」
『パンは、なにでできているの?』と大きく書く。
十四松くんがすぐに手を挙げた。
「はいはいはいははーい! ぼく知ってるよ! パンはねぇ、パンでできてるんだよ!」
「えー違うよ! パンは粉でできてるんだよ! さっき粉を入れてるの見たもん!」
チョロ松くんが突っ込む。
「二人ともすごいねぇ。そうだねぇ。パンというのはねぇ、小麦粉、酵母、水、バターで作るんだよ。種類によっては、砂糖や塩、卵を入れたりすることもあるんだよ」
一松さんはみんなを見回した。
「「「「「へー!!」」」」」
目をキラキラさせる園児たち。
「愛菜せんせい、ぼくたちお勉強してるね! すごい? すごい?」
おそ松くんが振り向く。
「そうだねー! すごいね! おそ松くんはすごいから、ちゃんと前を向いてお話も聞けるかな?」
慌てて前を向かせる。
一松さんはさらにパンの名前の由来も説明してくれた。クロワッサンはフランス語で三日月という意味らしい。
「はい、これでお勉強は終わりだよ。最後は箱詰めしたパンを運んでくれるトラックを見に行こうか」
「「「「「トラック見たいー!!」」」」」
子供たちが一斉に手を挙げた。