第26章 大人の社会科見学【一松】
いけないいけない。子供たちに集中しなくちゃ。別に心配する必要もなさそうだし、昨日の会話は忘れることにしよう。
私は園児たちと一緒に廊下の奥にある部屋に入った。中では従業員がパンの生地を丁寧に伸ばしている。
「ねぇねぇ、愛菜せんせい! パンってこうやって作るんだねー! せんせいは知ってた?」
トド松くんが私の足にしがみついてきた。
「先生も知らなかったよー! すごいねー! びっくりだねー!」
トド松くんは嬉しそうに頷いた。
「そっかあ! じゃあ、今日はボクもせんせいもお勉強だね!」
「ふふっ、そうだね。一緒にお勉強だね!」
トド松くんと顔を見合わせて笑い合う。
「お勉強いいですな……私にも教えてもらいたいものです……」
すぐ真後ろから声が聞こえ、私は凍りついた。
「あ……えーっと……」
恐る恐る振り返ると、至近距離でじっとこちらを見つめている一松さん。ゾッと背筋が寒くなる。
「せんせー! どうしたのー?」
おそ松くんが駆け寄ってきた。
「な、何でもないよ! それよりおそ松くん、白衣がズレてるよ! ちゃんと着ないとだめだよ」
一松さんから目を逸らす。私は屈んでおそ松くんの白衣を直し始めた。
やっぱり気のせいじゃない……。この一松さんって人、なんか気持ち悪い……。
「はい、直ったよ!」
立ち上がると、おそ松くんは嬉しそうにまたパンを見に走っていってしまった。
ふうっと息を吐いて見送ると、突然、肩に大きな手が置かれた。
「ひぃっ!?」
振り向くとまた一松さん。闇のオーラを纏ってこちらをじっと見つめていた。
「奥田先生……いつもああやって園児たちの服を直してあげているんですか……?」