第1章 彼はお医者さん【一松/医者松】
《愛菜side》
目の前の一松くんの白衣姿に鼓動が激しくなる。まさか、高校時代に好きだった人が医師になって私を診てるなんて……。本当にびっくりした。
確かに一松くん、頭良かったもんね。それにあんまり喋らなかったけど、優しかった。こっそり体育館の裏で猫に餌やってたし。
あ、そうそう、隣の席の私が先生に当てられて困っていたら、こっそり答えを書いたノートを見せてくれたっけ。後でお礼を言ったらそっぽ向かれたけど。
そっかあ、お医者さんかあ、一松くんにぴったり。思わず笑みがこぼれる。
「はい、口開けて。あーん」
素直に開けると、一松くんは私の口の中を診る。
どうしよう。ドキドキする。一松くんに口の中を触られると、なんだか変な気分になってくる……。
「37.3℃ですね」
気づくと、私は看護師さんに熱を測られていた。
一松くんがカルテに何かを書き込む。
「ふーん、顔が赤い割にはそこまで高くないな……。まぁ、解熱剤はいらないか……」
顔が赤いのは熱のせいじゃないよ、一松くん……。
「はい、じゃあ、次は胸の音を聴きますので、前を開けて下さいね〜」
看護師さんが言った。
「「えっ!?」」
私と一松くんは、同時に声を上げた。
「……? どうしたんですか?」
看護師さんが不思議そうに言う。
「あ、ああ、胸の音、ね。うん……」
一松さんが困ったように頷く。
私ってば、何を意識しちゃってるんだろ。馬鹿みたい。一松くんにとっては、ただの患者。毎日何十人も診ているんだろうし。恥ずかしがったら、変なヤツって思われそう。
私は覚悟を決めて、ブラウスのボタンを外した。