第1章 彼はお医者さん【一松/医者松】
カルテをもう一度見直す。見落としていたが確かに名前欄に愛菜の名前が記されていた。
名字は変わっていない。どうやら、結婚はまだしてないみたいだな。
……って、なんでおれ、ほっとしてんだよ。結婚しててもしてなくても関係ねぇだろ。彼氏いるかもしれないし。
色々考えながら、愛菜に向かい合う。
「……で、どうしたの?」
「昨日の夜から喉が痛くて、少し熱もあるみたいで」
「ふーん……風邪かな……季節の変わり目だし。じゃあ、喉を診るから。はい、口開けて。あーん」
ライトと舌を押さえる舌圧子を持って言うと、愛菜が「あーん」と口を開けた。
心臓が音を立てた。
な、なんだよ、その無防備な顔。
何の疑問も持たずにおれに向かって口を開ける愛菜。
これ、やばくねぇ……? ……いや、いけない。患者に何考えてんだ、お、おれは。
必死に冷静になり、口の中を診る。
でも、エロいな…………。好きだった女の子の口の中を見てるって……。
「……ああ、ちょっと喉赤くなってるね。扁桃腺は腫れてないけど。咳は出る……?」
「少し……」
なんだ……? 心なしか愛菜の顔が赤いような?
おれは愛菜の顔を覗き込んだ。
「あのさ……熱、辛いの……?」
「え?」
「顔……赤いから」
「あ……いえ……」
愛菜がなぜかモジモジする。
おれは横に立っていた看護師を見上げた。
「看護師さん、もう1回彼女の熱を測って」
「はい」
看護師が手早く愛菜の熱を測った。