第23章 桜とぼくらの一週間【チョロ松/学生松】
【思いがけない金曜日】
久々にすっきりと晴れた。気温も上がり、春らしい陽気だ。僕は化学の授業を聞きながら、隣の席を見る。
今日は愛菜がいない。風邪をひいたらしい。
水曜日にDVDを見られてから愛菜とはひとことも喋っていない。木曜日、愛菜は話すどころか僕のほうをちらりとも見なかった。変態とは関わりたくないんだろう。
女の子との友情なんて、こんなものだ。2年かけて築いた関係も一瞬のエロで壊れてしまう。そりゃ、自分たちがいやらしい目で見られていると知ったら、嫌な気分にもなるだろう。イケメンならともかく僕みたいなヤツが相手では。
黒板に向かってチョークを走らせていた教師が振り返った。
「はい。では、共有結合とイオン結合の違いを誰かに答えてもらおうか。じゃあ、松野……って、このクラスは松野が何人かいたな。えーっと、松野チョロ松」
「は!? はいっ!」
僕は飛び上がった。完全に油断していた。
「松野、説明して。分かるよな?」
「ええっと……」
立ったまま、教科書を慌ててめくる。こういう時、いつもだったら、隣の愛菜がこっそり教えてくれるのに。
「どうした? 説明が難しいなら、具体的な物質名をあげてみろ。分かるだろ?」
「は、はい……」
困って顔を上げると、ニヤニヤとこっちを見ているおそ松兄さんと目が合った。
瞬間、思い出す愛菜の顔とDVD。
『おっぱいモミモミぬるっと挿入』
とっさに浮かんだ言葉は、化学とはほど遠い。
「松野? どうした? 大丈夫か?」
教師が心配そうに僕を見る。