第23章 桜とぼくらの一週間【チョロ松/学生松】
【最悪の水曜日】
「うそーん、今日も雨だよぉ」
教室の窓から恨めしそうに空を睨む愛菜。僕はそのすぐ横の席でクリームパンをかじりながら、「ハイハイ」と返事をした。
「ちょっとチョロ松くん! パン食べてる場合じゃないでしょ!? 火曜日も雨だったんだよ? これじゃ、桜散っちゃうよ!?」
「だから、散るって言っただろ?」
僕はサンドイッチの袋を開けた。
「あっ! チョロ松くん! なんでサンドイッチよりクリームパンを先に食べたの!? 甘いのはあとでしょ!?」
「知らないよ、そんなルール。別にどっちから食べてもいいだろ?」
いつの間にか愛菜の興味は、もう桜からパンに移ったようだ。相変わらずコロコロと話題が変わる。
「ええ〜! サンドイッチは食事で、クリームパンはデザートだよね?」
「どっちも今の僕には食事なんだけど。それより愛菜も早く食べなよ。もうすぐ昼休み終わるよ?」
「ハッ! そうだ! 食べるの忘れてた!」
愛菜は慌てて隣の席で弁当を広げた。
まったく何なんだよ。言われなきゃ、昼飯食べるのも忘れるって、幼稚園児じゃないんだから。いや、幼稚園児だって昼食の時間になれば、お利口にちゃんと食べるよな。
僕は牛乳を飲みながら、窓の外を眺めた。あの大きな桜の木が雨の中で静かに立っているのが見える。まだ、花はそんなに散っていないようだ。でも、さすがに週末まではもたないだろう。
月曜日に愛菜と話したことを思い出す。うやむやで終わったけど、桜が散っていたら、僕の言うことを聞いてくれるんだろうか?
僕はちらりと愛菜を見た。
制服のスカートから覗くすらりとした足。思わず唾を飲み込む。