第23章 桜とぼくらの一週間【チョロ松/学生松】
「も〜! チョロ松くんってば、なんでそういう夢のないこと言うかな〜じゃあ、もし、週末になっても咲いてたら、私の言うこと聞いてくれる?」
「はっ? なんでだよ?」
「なんででも!」
風が吹き、愛菜の上に花びらがはらはらと散る。桜の雨に白い肌が映え、ふわりと色香が漂った。
「ま、まあ、別にいいけど。どうせ散ってるから……」
僕は耳が熱くなるのを感じながら、鞄を拾った。危ない。愛菜を見てたら、一瞬、変な気を起こしそうになった。
「そんなこと言って、週末には泣きごと言っても知らないからねー! う〜ん、何を聞いてもらおうかな〜! 今から楽しみ!」
愛菜は楽しそうに歩き出した。
僕は小走りに追いかける。
「あのさ、その代わり花が散ってたら、僕の言うことを聞いてもらうからね?」
「それは聞きませーん♪」
「いや、なんでだよ、おかしいだろ!」
愛菜がどう思っているのかは知らないが、少なくとも僕は分かっている。ふたりの関係はすごく危ういってことを。平均台の上を絶妙なバランスで歩く僕と愛菜。どちらかが少しでもその気を起こせば、男女の友情のバランスは崩れ、あっという間にふたり揃って落ちるだろう。
だから、僕は敢えて気づかないふりをしている。踏み出す勇気? 童貞の僕にそんなものはない。高校生活はまだあと1年近くある。確証もないのに動く気なんてない。せっかくの友達を失うなんて、ごめんだ。
僕と愛菜は、桜の花びらが敷き詰められた道を少し離れて並んで歩いた。