第21章 恋をすればお砂糖なんて【一松】
でも、これって一松さんとの仲を縮めるチャンスかもしれない。
私はくるりとシンクのほうを向いた。
「分かりました! どうぞ!」
「あ?」
「洗い物の続きをしますから、お尻触って大丈夫です! さあ、触って下さい!」
再びスポンジを手に取り、水を出す。
「…………」
覚悟を決めて食器を洗い始めるも、一松さんは一向に触ってこない。
あれ? おかしいな。
私は振り返った。
「あの……触らないんですか?」
「何か違う……」
「え?」
「もういい……ムードないし。おれ、歯を磨いてくる……」
一松さんがのそのそとキッチンを出ていく。
どうしよう。私、なんか間違えた? せっかく少し心を開いてくれそうだったのに。
「はぁ……結婚したのになかなか仲良くなれないな……」
溜息をついて、また食器を洗い始める。
一松さんと出会った日、彼は全然喋ってくれなくて目も合わせてくれなかった。それでも、何回か会ううちに少しは話してくれるようになり、やがて、猫の話題で笑顔も見せてくれるようになり、数回目のデートでいきなり結婚しようと言われ……。
「やっぱり、もっと時間をかけて付き合わないとだめだったのかな……」
過ごした時間は短いけど、私は一松さんのことが好きだ。出会ってすぐにこの人と一緒にいたいと思った。だから、彼のことをよく知らなくてもプロポーズを受けた。でも、共有した時間の蓄積がない私たちが、結婚生活を続けていくのは難しいのかもしれない。
一松さんは何で私と結婚しようと思ったんだろう。私のこと、あまり好きじゃないのかな……。
「もう、だめなのかも……」
排水口に吸い込まれていく泡を見ながら私は呟いた。
その時。
さわっとお尻に何かが触れた。