第21章 恋をすればお砂糖なんて【一松】
え? 帰ってきたのにそれだけ?
少し引っ掛かりながらも、私は微笑んだ。
「えっと……遅かったですね」
「今日は残業してたらこんな時間になった……」
一松さんはネクタイを緩める。
「そっか、お疲れ様です。夕食は外で済ませたの?」
「済ませてない……」
受け答えをしながらリビングダイニングに入る。
「どうします? 夕食食べますか? 先にお風呂?」
「…………」
一松さんはちらりとテーブルに目をやり、すぐに顔を上げて私を見た。
「どうかしました?」
「こういう時、新婚なら『それとも、わ・た・し?』って、聞くものじゃないの……」
「あ、じゃあ、やり直します!」
「いや……疲れてるから別にいい……風呂入ってくる……。おかず温めておいて」
一松さんは鞄を椅子に置くと、のろのろと部屋を出ていった。
私は電子レンジの扉を開けながら、考える。
う〜ん、一松さんでもそんなこと聞いて欲しいのかな? でも、一松さんって、全然甘々しないから、きっと言ったところでノッてくれないよね……。
結婚しても、相変わらず一松さんはなかなか心を開いてくれない。もちろん、他の人に比べれば開いてくれているとは思うけど、甘えたりイチャイチャしたりは滅多にしてくれない。少し淋しいけど、出会った時からそんな感じだから、仕方ないやと諦めている。
加熱中の電子レンジを眺めながら、私は試しに口に出してみる。
「お風呂にする? ごはんにする? それとも、わ・た・し?」
「あんた、一人で何やってんの……」
後ろからいきなり声をかけられ、私は「ひぃっ!」と飛び上がった。
「一松さん!? も、もうお風呂出たんですか!?」
「うん……疲れたからシャワーで軽く流しただけにした……」
「そ、そう」
「あのさ……」
一松さんは死んだ目で私を見つめる。
「はい?」
「何でもない……」
夫はテーブルに座ると黙々と食事を始めた。