第21章 恋をすればお砂糖なんて【一松】
静かな部屋に秒針の音が響く。私はテーブルに座りながら、時計を見上げた。
0時。
目の前には手付かずの冷えた夕食が並んでいる。
「今日は夜勤じゃないって言ってたのになあ」
ぽつりと呟くと、猫の『あずき』と『きなこ』がノソノソと入ってきて、二匹同時にニャーと鳴いた。大好きな主人の帰宅が遅いことにご不満のようだ。
「うんうん、君たちのご主人さん、遅いねぇ」
返事をしながら席を離れ、猫たちの頭を交互に撫でる。ゴロゴロと気持ち良さそうに喉を鳴らし、ひとしきり下僕のマッサージを堪能すると、あずきときなこは満足げに離れた。
知り合いの紹介で出会った一松さんと結婚して3ヶ月。
ようやくこの2匹も私の存在に慣れてきた。それでも元々の飼い主の一松さんとは明らかに区別しているようだ。猫たちの中では『愛菜=下僕』という位置付けらしい。要求も激しいし、気に入らなければ軽く噛まれたりもする。
「帰ってこなさそうだし、もう寝ようかな……」
私が溜息をついて夕食を片付けようとしたその時、玄関のドアが開く音がした。
帰ってきた!
大急ぎで向かおうとすると、私を追い抜いて、あずきときなこが一直線に走っていく。
「お帰りなさい!」
私たち三匹は、ほぼ同時に一松さんに飛びついた。
「ッ!?」
一松さんが目を見開いて、よろける。
「あ、ごめんなさい」
私は慌てて一松さんから離れた。
屈んであずきときなこを撫でながら、夫は「ああ……」と虚ろに呟く。