第20章 アクアリウムに沈む愛【カラ松、おそ松】
足音を立てないように慎重に歩く。そっと入り口に立ち、中を覗くと、個室のドアはまだ閉まっていた。
もう少し近付こうと、男子トイレの中に入った瞬間、何かが動く物音と共に「ああっ……やっべ……イイ……」とおそ松の声が聞こえた。
心臓が止まった。
いや、もちろん正確には止まってはいないが、止まった気がした。
「んっ……あ……ちょっと……激し……やめ……」
愛菜の声。
布が一定のリズムで擦り合わさるような音が響く。
ああ、やっぱり。思った通りだ。オレは何で戻ってきた?
男女の激しい息遣い。音は徐々に早くなり、やがて肌と肌がぶつかるような音に変わる。
オレは片手を壁に付き、もう片方の手で頭を押さえた。まともに立っていられる気がしない。
「なぁ、カラ松がすぐ近くにいるのに、実は俺に挿れられてたってどーなの? 興奮した?」
息を切らしながら、おそ松が話しかける。
「は……何言って……んっ……あ……ば、ばかぁ……」
普段聞いたことのないような愛菜の甘い声。
まさかと思って戻った。でも、それは建前だ。内心は何もないだろうと期待していた。そんなことはあるはずない、と。
でも、よく考えてもみろ、カラ松。今まで期待してその通りになったことなんてあったか? だいたい最後は酷い目に遭うオチだっただろ? オレは元々そういうデスティニーの下に生まれたじゃあないか。
「ああああっ!」
愛菜が突然大声を上げる。
ズチュズチュと水音が響く。個室の向こうでおそ松に責められ、だらしなく顔を緩める愛菜の姿が頭に浮かぶ。
「なぁ……愛菜……気持ちいい……?」
おそ松の声。
やめてくれ、聞きたくない。
愛菜の返事は聞こえなかった。ただ、二人の息遣いと律動音が聞こえるだけ。