第20章 アクアリウムに沈む愛【カラ松、おそ松】
「だろうな。とりあえず、オレはショップを覗いてくる」
オレは踵を返し、トイレを出た。
不安になる理由は分かっている。愛菜が好きなのは、おそ松だからだ。小さい頃から、愛菜はおそ松に想いを寄せていた。傍から見れば、誰でもすぐ分かる。
なのに、当の本人のおそ松は、気付いているのか、気付いていないのか、愛菜に曖昧な態度を取り続けてきた。
悩んだ愛菜に何度呼び出されたことか。オレと話したところで悩みが解消されるわけでもないのに。でも、頼ってくれる愛菜を無下にはできなかった。なぜなら、オレは優しいからだ。
たとえ、好きな女が他の男のことで頭がいっぱいでも、オレは構わない。別にワンチャンあるなんて思ってもいない。ただ、愛菜が笑っていてくれればそれでいい、そう思っていた。
花見の日、酔ってうっかり愛菜に想いを告げてしまうまでは。
愛菜は、オレと付き合い始めておそ松を忘れようとしてくれていた。一生懸命オレを好きになろうとしてくれていた。
でも、ふとした時に愛菜はおそ松を見ていたし、オレといても楽しくはなさそうだった。いや、表面上は楽しそうにしていたが、やはり何かが違うんだろう。
そして、オレたちが付き合い始めた途端、おそ松は愛菜のことを気にし始めた。今さらだな、おそ松。今さら、オレから愛菜を奪う気か? 散々、泣かせておいて勝手なやつだ。
オレは立ち止まり、トイレの方を振り返った。
カラ松よ、今、何を考えている? いくら何でもこんな公共の場でありえないだろう? 愛するブラザーと愛菜を信じないのか? いや、でも、まさか……な……。
オレの足は自然とまた男子トイレに向かっていた。