第20章 アクアリウムに沈む愛【カラ松、おそ松】
「なあ、おそ松……」
オレは足を止め、振り向いた。
平日の水族館。男子トイレの中。
カノジョの愛菜、おそ松の二人と一緒に回っていたはずが、いつの間にかはぐれて一人で水槽を覗き込んでいたオレ。散々探したあげく、辿り着いた男子トイレでおそ松が個室に入っているのを見つけた。
一旦はトイレを出ていこうとしたものの、ふと気になったことがあり、オレは再び個室の前に立つ。
「ん〜? どした?」
中からおそ松の呑気な声。
オレは、ゆっくりと言葉を区切るように尋ねた。
「まさかとは思うが、そこに愛菜はいないよな……?」
「は……?」
おそ松の驚いたような声。
沈黙が続く。
オレは一体何を言っているんだ。自分でも馬鹿なことを聞いたものだと思っている。なのに何故だろう、この何とも言えない嫌な気持ちは。
おそ松は答えない。オレはごくりと喉を鳴らした。思っていたよりも大きな音が響き、おそ松に聞こえたかもしれないと不安になる。
個室からは何の音もしない。
「おそ松?」
静寂を愛するオレが静寂に耐えきれず、兄の返事を催促してしまう。
いないと言ってくれ。頼む、おそ松。
「あ……ああ! わりぃ。言ってる意味が分かんなくて。愛菜がこの中にいるってことか? いくら俺でもクソしてるところを女の子に見せる趣味はねぇわ〜」
おそ松の能天気な返事に、オレは胸を撫で下ろした。
「そうか……そうだよな。すまないな。変なことを聞いて」
「おう。愛菜のことだから、そこらへんをウロウロしてんじゃねぇの?」
おそ松の言う通りだ。愛菜は買い物の時でもすぐにあちこち見に行ってしまう。今日だって、オレがコツメカワウソの愛らしさに夢中になっている間にさっさと次の展示室へ行ってしまった。