第17章 片道タクシー【カラ松】
私は唖然として彼を見つめた。
浮気した帰り道……?
嘘……。
「ま、よく分かったよ。俺は結婚向いてねぇわ。いつまでも自由でいたいんだって気付いた。責任負うのが嫌なんだろうな。よかったよ。結婚する前に分かって。式場のキャンセル料は痛かったけど、あのまま結婚してたらすぐだめになってたと思う。ありがとな。愛菜が俺を切ってくれて助かった」
「…………」
「噂で聞いたよ。愛菜の旦那は、奥さん思いの優しい人だって。たしかタクシー運転手だっけ? よかったな。いい人に巡り合って」
「あのっ……それは違うの! 私は無理やり結婚させられてっ――」
その時、後ろから「ハニー!」と声がした。振り向くと夫が駆けてくるのが見える。
「おおっ、愛菜の旦那か? 面倒臭くなりそうだから、俺は退散するよ。じゃあな、もう会うこともないだろうけど……幸せになれよ」
「え……あの……!」
元婚約者はひらひらと手を振ると、足早に雑踏の中へ消えていった。私はどうすることもできず、ただ呆然と彼の背中を見送る。
「ハニー! どこに行ってたんだ! 探したぞ!」
後ろから息を切らせて走ってきた夫が、私に勢いよく抱きついた。
「ごめんなさい。ちょっと見たいものがあって」
夫は私の手首をしっかりと掴む。
「いいか? どこへも行くんじゃないぞ? オレから離れてはだめだ。心配するじゃないか。見たいものがある時はオレに相談するんだ。まさかこのオレから逃げようとか考えてないだろうな? 探している間、不安で仕方なかったんだぞ!」
「…………」
私は夫を見つめた。