第17章 片道タクシー【カラ松】
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「あれ? 愛菜? 久しぶりだな」
声をかけられ振り返ると、懐かしい顔が目に入った。休日のショッピング・モール。ショップの店先で久しぶりに服を眺めていたところだった。
まさかこんなところで再び会うなんて……。私は内心驚きながらも、顔には出さずに元婚約者に会釈した。
「うん、久しぶり」
元婚約者は微笑む。
「聞いたよ。結婚したんだって? おめでとう」
「うん……」
彼は少し顔を歪め、黙り込んだ。私も特に返す言葉が見つからない。
「あのさ……」
「うん?」
元婚約者は、少し迷った表情を浮かべ、しばらく思案していたが、思い切ったように口を開いた。
「悪かったな。あのときは……」
「あのとき?」
「分かってたんだろ? 俺の浮気」
「えっ……?」
彼は申し訳なさそうに視線を落とす。
「愛菜との結婚が決まって、正直、もっと遊びたくなったというか、落ち着くのが嫌になったというか……だから、浮気に走っちゃってさ。バレてないと思ってたけど、愛菜はちゃんと分かってたんだな。急に連絡が取れなくなって気付いたよ」
浮気……?
知らなかった……。彼が浮気していたなんて今初めて聞いた。連絡を取れなくなったのは、タクシーの男に捕まったからで……。
元婚約者は話し続ける。
「ちょうど愛菜と連絡取れなくなった頃かな。俺、交通事故に遭ってさ〜。怪我は大したことなかったんだけど、轢き逃げされて。でも、轢かれたのは、浮気した帰り道だったんだよ。飛び出したのも自分だったし。天罰だったのかもな」