第17章 片道タクシー【カラ松】
「いやあああああっ! 痛いっ!」
悲鳴をあげると、男は笑いながら手を離す。
「ハニー、どんなに大声を出しても無駄だからな。このタクシーは特別仕様で中は防音だ……」
妖艶で低い声が耳を犯した。
「特別仕様……?」
「ああ、防音以外にも機能がある。見るか?」
運転手がナビに何かを入力する。途端に車体が揺れ、ボンネットが勢いよく開いた。天井から大きな音がし、何かがせり上がっていく気配。窓の外は眩い光に照らされ、キラキラと回りだす。
「な、何これ……何なんですか……?」
意味がわからず、周りを見回す。
「フッ、耳を澄ますんだ、ハニー。聞こえるだろう……?
カ ラ 松 Go Go Go
と……」
たしかに聞こえるけど……。一体、何? なんなの? この人、狂ってる……。
私は派手に回る光を見ながら考えを巡らせた。
逃げたい。今すぐに。でも、どうやって?
隙をついて走って逃げれば、なんとかなるかもしれない。とにかくどこかの家に助けを求めて、すぐに救急に連絡してもらおう。冷静にならなきゃ。あの人を助けないと。
「あの……この光ってライトか何かですか……?」
男は一瞬驚いたような顔をしたが、すぐに得意げに答えた。
「いや……
ミ ラ ー ボ ー ル
だ……」
「そうなんですか? ここからだと見えないですけど、大きいんですか?」
「フッ、ハニー、興味があるのか? なんなら外から見てもいいんだぞ? ドアを開けてやろう」
あんなに開かなかったドアがいとも簡単に開く。冷たい雨が車内に降り込み、私は反射的に顔をしかめた。