第17章 片道タクシー【カラ松】
「音……?」
音って何? なんの話?
運転手は不気味に笑う。
「さっき、ちゃんと轢いておきましたよ? あなたの婚約者を。轢く瞬間の音をお客さんも聞いたでしょう? これでもう嘘ではなくなりましたよね?」
「っ!?」
じゃあ、さっきの『大きなゴミ』というのは……。
私は慌ててドアを開けようとした。
「無駄ですよ、お客さん。タクシーだから手動では開きまニッション」
「降ろして! 早く助けに行かないと……!」
必死に試みるが、ドアが開く気配はない。
運転手は手を伸ばし、私の腕を掴んだ。
「落ち着いてください、お客さん。当タクシーは片道タクシーとなっております」
「片道タクシー?」
「ええ。あくまで片道のみ。帰りはありません。一度乗車したら、二度と戻ることはできないのですよ」
「何言ってるの!? 降ろして! 早くしないと彼が……!」
そのとき。
「……そんなにあいつが大切か?」
急に運転手の口調が変わった。
怯んだ私はついドアから手を離す。
「彼のことを知ってるんですか!?」
「もちろん知ってるさ……。君のことをずっと見てきたんだ。毎日毎日……。このカラ松は、君のことならなんでも知ってる」
「カラ松?」
聞いたことのある名前……。
私はハッとした。
「もしかして、松野さんのところの……」
「ああ、そうだ。君の近所の松野だよ。どうしてそんな顔をするんだ、ハニー? デスティニーで結ばれた君とオレとの仲じゃないか?」
「は!? 話したこともないのに……!」
カラ松と名乗った男は、私の腕を捻り上げた。