第17章 片道タクシー【カラ松】
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「すみません。もしかして迷ってません?」
声をかけると、運転手は笑った。
「そんなことはないですよ。もうすぐ着きまニッション」
あれから30分は経っている。周りを見ても暗いうえに窓も曇って、どこを走っているのかわからない。
「急いでいるっていいましたよね? 早く病院に行ってほしいんです! 必要なら案内しますから!」
運転手は不思議そうに首を傾げた。
「もちろん、急ぎますけど……。お客さん、こんな夜に病院にお急ぎって、失礼ですが、もしかして身内の方がご病気か何かですか?」
私はイライラしながら返す。
「ええ。事故に遭ったと病院から連絡が来たんです」
運転手は驚いたようにバックミラー越しに私を見た。
「もしかしてご兄弟の方とか?」
「いえ、婚約者です」
「婚約者!? それは大変だ。ご結婚が近いんですか?」
「はい。来月挙式予定で……」
運転手は首を振った。
「それはさぞやご心配でしょう。早く犯人が捕まるといいですね」
私はうなずいた。
本当に心配だ。轢き逃げだなんて、なんであの人がそんな目に……。
「ん……?」
なんだろう、この違和感。私は運転手をじっと見つめた。
「どうしました、お客さん? もう一度抜け道を使いまニッション?」
「どうして……分かったんですか?」
私の言葉に運転手はまた首を傾げる。
「何がですか?」