第17章 片道タクシー【カラ松】
暖房の効いた車内。窓が曇っていて外は見えない。雨の音が静かに響く。
私は焦る気持ちを抑えながら、運転手に尋ねた。
「あと、何分で着きますか?」
「8分で着きまニッション……」
よかった。8分ならすぐだ。ようやく安心してシートに身を沈める。
ホッとしたら、疲れが出てきた。いきなり電話がかかってきて、取るもの取らずに大慌てで家を飛び出したのだ。とりあえず、病院に着いたらまずは……。
そのとき、思考を遮って、劈くようなブレーキ音が鳴り響いた。何かが車体に激しくぶつかる音。車は大きく揺れながら停止する。
「どうしたんですか!?」
私の問いには答えず、運転手は外へ降りた。
一体、何が起こったんだろう? もしかして事故?
状況がわからず不安になりながら待っていると、ほどなくして運転手は戻ってきた。
「すみません、お客さん。特に問題はありませんでしたよ。大きなゴミが落ちていたみたいで。お急ぎでしたよね? すぐに出ますから」
大きなゴミ?
少し引っかかったが、今は考える余裕はない。とにかく急いで欲しい。
車はすぐに発進した。
「あの……さっきのは……?」
私が恐る恐る訊くと、運転手は軽やかに返事する。
「ああ、気にしないでください。車も傷ついていませんし」
え、車の状態を訊いたわけじゃないんだけどな……。
しかたなく話題を変えた。
「本当に8分で着くんですか? もうそろそろですよね?」
「さっきので多少のタイムロスはしかたないかもしれない。ここは抜け道を使いまニッション」
車が大きく右折する。私はまた外の見えない窓に目をやった。
それにしてもよく降るなあ。おまけに寒い。三寒四温とは言うけど、まだ冷え込むのだろうか? もしかしたら、雪になるかもしれないな。
私はぐったりとシートに身を預けた。