第16章 俺はキミを覗きたい【おそ松】
「いや、今日さ〜、あのおっさんのせいで見れなかったし。しかも明日からはちゃんとカーテン閉めるんだろ? 見納めにさ。それくらい見せてくれても罰当たんないと思うよぉ?」
「でも……」
「見るだけ! 見るだけだから! 絶対に何もしないから! ねっ? お願い!」
パンパンッと手を合わせた。
「…………」
彼女は怯えた表情のまま固まって動かない。胸元を隠す手がぐっと握りしめられ、微かに震えているのが分かった。
ありゃ、さすがに怖がらせちゃったか。そりゃ、そーだよな。
俺は、急遽、方向転換を試みる。
「へへっ、冗談冗談! そんな怖がらないでよぉ!」
へらへら笑ってみせると、彼女の顔がホッと緩み、強張っていた体から力が抜けた。
「本気なのかと思ったから……」
「ま、それで見れたらラッキーとは思ったけど」
「…………」
また、少し怯えた表情に戻る。
さっさと退散した方がよさそうだ。残念だけど、今夜のお供は画面の中の彼女に変更だな。ま、いーや。俺、彼女いっぱいいるから。早くDVD借りに行こうっと。
「本当に帰るわ。長々とごめんな」
ひらひらと手を振ってみせて、部屋を出た。
「あのっ! 本当にありがとうございました!」
彼女が慌てたように追いかけてくる。
俺は玄関で靴を履き、ふと振り向いた。
「あ、そーだ。おねーさん、名前なんて言うの?」
「愛菜……。奥田愛菜です……」
へぇ〜、可愛い名前じゃん。
「んじゃ、愛菜ちゃん、またね。本当にカーテン閉めなよ。あと警察に連絡な」
さっさと外に出る。ドアを閉める瞬間、心細そうにこっちを見つめる彼女と一瞬目が合った。
気をつけろよ、本当に。君、可愛いんだからさ。
マンションを出ると、煙草に火をつけ、俺は人っ子一人いない静かな夜道を歩き出した。