第15章 狼なんかこわくない【トド松/学生松】
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「セ・ン・セッ」
甘えたような口調で声をかけられ、私は顔を上げた。
今日もまた同じ教室、同じ風景。机の周りに山積みにされたテスト用紙。
「なーに? 授業は5時からだけど? というか、テストの採点しているから、まだ教室には入って来て欲しくないんだけどなぁ」
私の言葉に目の前の生徒は鈴を転がすように笑う。
「やだなぁ、先生。本当は会えて嬉しいくせに」
私は目を細めて、制服姿の彼を眺めた。
松野トド松、高校3年生。あと、3ヶ月経てば、卒業して『生徒』ではなくなる男。
「うん、嬉しいよ。ただし、ここは勉強する場所なんだから、速やかに隣の自習室へ行」
キスで口を塞がれる。間髪入れずに甘い舌が口内をねっとりと犯していく。
「んっ……んんっ……ぅん……」
私たち以外誰もいない教室に、口づけし合う音が響いた。
「ふふっ。して欲しかったんでしょ?」
唇を離して、また余裕のある顔であざとく笑うトド松くん。
ああ、悔しい。あっという間に熱が顔に集まる。
「……して欲しかった……けど……」
「けど?」
「もっとしたくなっちゃうから、だめ……」
トド松くんが笑い出す。
「はいはい。もう、しょうがないなぁ。じゃあ、今夜も愛菜ちゃんの家で待ってるから」
私は頷いた。
「うん、できるだけ早くあがるから待ってて……」
トド松くんは満足そうに頷くと、床に置いた鞄を拾う。
「さーてと! じゃあ、自習室に行ってこようかなっ」
「あれ? やっとやる気になったの?」
「やる気はないけど、明日追試があるから」
口から飛び出す爆弾発言。