第15章 狼なんかこわくない【トド松/学生松】
「は!? 追試!? 何の!?」
私は慌てて立ち上がった。
「期末の追試。これでだめだったら、卒業できないかも。だからさすがに今日は勉強してくるねっ」
「ちょ、ちょっと待ちなさい! 期末試験は何点だったの!? 何も聞いてないけど!?」
「うん。言ってないからね」
さらりと返される。
「なっ!? トド松くん、返ってきたテストを今すぐ全部出しなさいっ!」
トド松くんは大袈裟に溜息をついてみせた。
「あ〜、昨日部屋の片付けした時に捨てちゃったかな。ほら、ボクって、潔癖なところあるから」
「…………」
言葉を失った私にトド松くんは呑気に笑いかける。
「いいじゃん。もう卒業だもんっ!」
「よくないよ……。分かった。なら、今日はえっちしない。私の家でも勉強しよう? みっちり教えるから」
トド松くんが意味深に口角を上げた。
「またまた、そんなこと言って。ボクと二人きりになったら、絶対したくなっちゃうよ? 愛菜ちゃんは、耐えられるの?」
「…………」
ああ、もうホントこの生徒は。
私は一生敵わない。
「じゃ、自習室に行ってくるね。また後で。好きだよ、セ・ン・セ」
トド松くんは踵を返し、教室を出て行く。
あとたったの3ヶ月。まだまだ長い3ヶ月。
だめな大人の私は、きっと今日も彼のあざと可愛いお誘いに乗ってしまうのだろう。
私は溜息をつくと、椅子に座り込んだ。窓から差し込む西日が机の上を優しく照らしている。
生徒たちが教室に来るまであと少し。私はペンを拾い、再びテストの採点を始めた――。
―END―