第15章 狼なんかこわくない【トド松/学生松】
「『捨てるの?』って、拾わせてもくれなかったくせによく言うよ。ボクのこと全然相手にしてなかったじゃん」
「知らない……」
「はぁっ!? ボク、ちゃんと何度も好きって伝えてたよ? なのに先生はいつもはぐらかして」
「忘れた……」
トド松くんが急に吹き出した。
「あははは! なに、それ。ひっどいなぁ! 先生のくせに」
「先生じゃないもん……」
「いや、そこは否定したらおかしいでしょ」
トド松くんが笑いながら、頬を撫でる。甘い痛みが胸に広がった。私を見つめる瞳は、なんでこんなにも澄んでいて綺麗なんだろう。
「なんかトド松くんって生意気……」
「なんで!?」
「だって、女の子みたいな香水つけてる……誰にもらったの……」
トド松くんは「ああ」と言って、Tシャツの裾を掴み、匂いを嗅いだ。
「これは柔軟剤の香り。母さんが気に入って使ってるやつ」
「ほんとに?」
「ほんとだよ。先生でもヤキモチとか妬くんだ?」
「妬く。めちゃくちゃ。もう女の子と仲良くしちゃだめ」
トド松くんがまた笑い出した。
「あははは! 極端だなあ! もっと前から妬いてくれればよかったのに。素直で子供っぽい先生も可愛いよ」
「先生じゃないもん。愛菜」
トド松くんは私の顎を持ち上げる。
「はいはい。分かった分かった。しょうがない子だね。愛菜ちゃん」
そっとキスが下りてきた。