第15章 狼なんかこわくない【トド松/学生松】
諦める……? 諦めちゃうの……?
「それにあと3ヶ月ちょっとで卒業だしね。卒業したら、塾はやめるし、先生と会うこともなくなるだろうから」
卒業したら会うこともなくなる……。
そんなの前から分かっていたのに。もう振り回されなくて済むからほっとするはずなのに。
私はトレーナーの胸元を強く握り締めた。何だろう、今すぐ胸の中をかきむしりたい気分だ。
「ねぇ、トド松くん……。卒業したらどうするつもりなの……?」
「ん〜。フリーターかな。行く行くはカフェとかで働いてみたいし。まあ、働かなくて済むならそれがいいけど。兄さんたちもみんな就職も進学もする気ないみたいだしね。卒業してしばらくはゆっくりするよ」
何でそんなあっさりと言うの? だって、そんなのって……そんなのって……。
唇を噛みしめると、トド松くんは冷たい目で私を見た。
「何? そんなのただのニートだろって思った? まあね。ボクら兄弟、みんなニート希望だからね。だって、人生楽してうまく渡っていけるなら、それに越したことはないもん。ボクは損はしたくないから」
「…………」
「先生、ボクに幻滅したでしょ? いいよ、がっかりしてくれても。ボクももう先生のこと忘れるつもりだし」
いつもの可愛らしいトド松くんからは想像もできないような淡々とした感情のない声。
私は下を向いた。
膝の上に乗せた手が目に入る。数日前にサロンで施術してもらったばかりのピンクのネイルは、本当はトド松くんに見てほしいと思って選んだデザインだ。
やたら色鮮やかに艷やかに光るネイルが、今は場違いで空々しいものに見えてくる。
一滴、また一滴。
ネイルの上に水滴が落ちた。
「先生……?」
顔を上げるとトド松くんが目を丸くしている。
私は自分が泣いていることに気付いた。