第15章 狼なんかこわくない【トド松/学生松】
「でも、『今日は友達の家に泊まる』っておそ松兄さんから母さんに伝えてもらったから。母さんたちはもう寝てるし、鍵も掛かっているから家には入れないよ」
「お兄さんたちに連絡して鍵を開けてもらえば?」
「兄さんたちは携帯持っていない。でも、家電に掛けたり、家の前で大声出したら、母さんたちを起こしちゃうし」
もしかして、ここまで全部計算済みなんだろうか。可愛い顔して、あざといと言うか、ずる賢いと言うか……。
私は溜息をついてこめかみを押さえた。
「ねぇ、先生。そんなにボクを泊めるの嫌なの?」
「嫌とかそういう問題じゃなくて……」
「じゃあ、もしかして、ボクに襲われるのが怖い?」
「え?」
顔を上げると、こちらを見つめているトド松くんと目が合う。ああ、またこの顔だ。意味ありげに含み笑いをして、まるで私を手のひらの上で転がしているような余裕の表情。
「家に入れた途端、ボクに襲われちゃうって思ってるんでしょ? やだなぁ、先生。それ、自意識過剰」
「は!? 別に思ってません!」
「またまた〜。思ってくるくせに。さすがにボク、そんなことしないよ。でも、嬉しいなあ。そんな心配してくれるなんて、やっぱりボクのことを男として見てくれてるんだ」
「見てないよ。生徒なんだから」
「本当に? じゃあ、泊められるでしょ? ボクのこと、ただの生徒で、まだ高校生の子供だと思ってるなら怖くなんかないよね?」
「…………」
「それにさ〜、この寒い中、家に入れずに放り出すなんて、大人としてどうなの? って思うんだけど」
だめだ。彼に口では敵わない。泊めてクビになるのも嫌だけど、泊めずに何か起こったら、もはやシャレでは済まなくなる。
私は諦めてシートベルトを締め、エンジンをかけた。
「いい? 家に着いたら、お風呂に入って速やかに寝ること」
「はーいっ!」
トド松くんが元気よく返事をする。車は駐車場を飛び出した。