第15章 狼なんかこわくない【トド松/学生松】
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塾を出ると私は白い息を吐いた。外は刺すような冷たさ。時刻はもう夜10時を回っている。授業を終え、ダラダラと残ろうとする生徒たちをなんとか追い出し、書類を片付け、雑用を済ませれば、もうこんな時間。
「あー、寒っ……」
駐車場に向かいながら、スマホを見る。
あの日以来、トド松くんからは度々メッセージが送られてきていた。
初めは数学の質問だが、それが口実なのは見え見え。すぐに『先生は今何してるの?』『ねぇ、ボクのこと好き?』『先生の写真送って』『大好きだよ』『今度カフェでお茶しよ?』
熱烈なメッセージに変化する。
今時の男子高校生って、こんなに積極的で素直に気持ちを言うものなんだろうか。あまりにストレートすぎて、からかわれているだけなんじゃないかと思えてくる。あたふたする私を見て内心はバカにして笑っているのかもしれない。
もし、彼の言葉が全部嘘だったとしたら……。
「ショックだな……」
つい口からこぼれる本音。
別におかしい感情ではないはず。誰だって、嘘をつかれて裏で笑われていたら、ショックを受けるに決まっている。
でも、問題なのは、心の何処かで『トド松くんには本当に私のことを好きでいてほしい』と思っている自分がいることだ。
『応える気はないけれど、好きでいてくれ』なんて、なんとずるい嫌な大人だろう。
スマホをしまい、駐車場に入る。この時間になると、照明も最低限に落とされ、車もほとんど停まっていない。
私は自分の車の前で教材の入った重い荷物を地面に下ろし、クラッチバッグからキーを出そうとした。