第15章 狼なんかこわくない【トド松/学生松】
「『愛菜ちゃん』じゃなくて、『先生』でしょ?」
問題用紙をしまい終わり、PCの置いてあるデスクに向かう。
「名前で呼んでもいいでしょ? 先生って言ったって、ボクと4歳しか違わないくせに」
トド松くんが後をついてくる。
「4歳も違えば充分でしょ? 次からは名前で呼んだら返事しないから」
「え〜っ! ちぇっ……」
座ってPCを立ち上げる。授業が始まるまでに明日の会議の資料を作れるだろうか?
あ、でも、その前に、教室の机をまだ拭いていなかったっけ。生徒たちが来る前に拭いておかないと。
私は立ち上がった。
「も〜先生ってば! 話聞いてよ! どこ行くの?」
「どこも行かないよ。机を拭くだけ」
「じゃあ、ボクも手伝うよ!」
トド松くんが鞄を置き、コートとマフラーを脱ぐ。
「手伝わなくていいから。それより、勉強してくれた方が先生嬉しいんだけどなぁ」
机を拭き始めながら言うと、トド松くんはむくれた。
「もうっ! ボクは先生と一緒にいたいの! 自習室に行くんだったら塾に来た意味ないし!」
私は溜息をつく。
「意味あるでしょう? 塾は勉強するところなんだから」
最近、毎日こんなやり取りが続いている。何を気に入ってくれたのか分からないが、トド松くんは、いつも私にくっついている。