第10章 お持ち帰りの長い夜【一松】
おれは黙ってひざまずいた。
おお、女神よ。あなた様のおかげで、卑しい雄豚のわたくしめは、帰るのをとりあえず回避できました。その代わりといってはなんですが、どうぞ蔑み、罵り、罰をお与えください。
床に何度も頭を打ちつける。
「ちょっ!? 一松くん!? 急に何してるの!? やめて!」
愛菜ちゃんが驚いて止めようとする。
「おれを殴ってくれていいよ……。あ、素手が汚れるのが嫌だったら、そこの灰皿でも使って……陶器だから確実に殺れると思う……」
「何言ってるの!? と、とにかく、順番にお風呂に入ろう?」
焦ったようにバスルームを指差す彼女。
「じゃあ、先に入ってくれば? ゴミみたいなおれの使ったあとに入りたくないでしょ……」
おれは立ち上がった。
「え? 別に気にしないけど」
「いいから」
強めに言うと、愛菜ちゃんはうなずいてバスルームに行きかけたが、ふと足を止めた。
「ん……どうしたの……?」
声をかけると、小走りで戻ってきて、おれの顔を下から覗き込む。
「ねぇ、一松くん。私が入っているあいだに、先に帰っちゃったりしないでね?」
「っ!?」
おれは心臓を撃ち抜かれた。
何その甘えたような上目遣い。
可愛い……抱きたい……。
「あ、あ、うん……。帰らない。帰らないから……」
どもりながらも返事をすると、愛菜ちゃんはにっこり笑ってバスルームに入っていった。