第10章 お持ち帰りの長い夜【一松】
「あの、一松くん?」
「なに……?」
どんよりとした目でこちらを見上げる一松くん。
「えっと、その……」
何これ? なんて言えばいいの?
『私としましょう』? いやいやいや、直球すぎる。
『抱いて』? いや、これじゃ、ただの欲求不満な痴女でしょ。
どっちにしろ、私から言えるはずがない。
合コンの席で一松くんと猫の話をして、すごく楽しかった。不器用そうだけど、いい人だなって思ったし、本当に猫が好きなのも伝わってきた。ミーコのこともお世辞じゃなくて、心から可愛いって言ってくれているのがわかった。
だから、ちょっといいかなと思ったんだけどな……。
でももしかして、盛り上がった雰囲気を壊さないように渋々付き合ってくれただけ?
あれ? あれれ? これって、もしかして帰ったほうがいいやつ!?
「あんた、帰りたいの……?」
「えっ!?」
考えていたことをそのまま一松くんに言い当てられ、思わず素っ頓狂な声が出る。
「あ、えっと――」
「いいよ、帰ろっか……」
そう言うと、一松くんは立ち上がり、テーブルの上の財布を取った。料金表も取り、金額を確認する。
「あ、お金っ! 私も払うからっ!」
慌てて鞄から財布を出そうとすると、止められた。
「いいよ。おれ、払うから……」
「でも……」
本当に何もせずに帰るの? 据え膳食わぬはなんとかって言うけど、私、そんなに魅力ないのかな。かなりショックなんだけど……。