第8章 おねがい♡サマー仮面【カラ松】
「どうしたんだ、ハニー? 気に入ったんじゃないのか?」
サマー仮面が不思議そうに私を見る。
「あら、残念ねぇ。また、よろしくね」
おばさんは特に気にする様子もなく、優しく笑った。
「はい、すみません……。カラ松くん、もう充分遊んだし、帰ろうよ。荷物取ってくる」
返事も聞かずに、私は海水浴場へ向かって歩き出した。
私ってば、カッコいい彼氏が欲しいとか言っちゃって、つい忘れてたんだ。
誰かを好きになって付き合えば、喜びを得られる分、裏切られて傷つくリスクだって背負う。そんな覚悟、今の私にあるの? もうあんな思いはしたくないでしょ?
「ハニー! 待つんだ!」
後ろからカラ松くんの声が聞こえた。
私は振り返らずに歩き続ける。
カラ松くんが優しくしてくれるから、今日一緒に過ごして楽しかったから、自分でもまた恋できるんじゃないかって勘違いしちゃった。
今の私はカップを投げつけて帰ったあの日から何も変わっていない。恋を始められるスタートラインにさえ立てていないのに。
「愛菜ちゃん!」
追い付いたらしいカラ松くんの声がすぐ後ろから聞こえて、私は腕を強く掴まれた。