第1章 1
「恵梨、一つ言ってええか?」
「はい、何でしょう?」
「別に、鳴き声はいらんやろ」
───しばしの沈黙。
「そんなことないですよ!!!!」
「いや、必要ない」
「鳴き声がなくて羊か山羊か分からなくなったら、飛び越えた柵の中がパニックになりますよ!?」
「ならんならん」
俺は、必死に鳴き声の重要性を語る恵梨を軽く受け流しながら、ベッドの横に置いてあった煙草に手を伸ばし、火をつけた。
煙を深く吸い込み、ふーっと吐き出す。
耳元では、まだ恵梨が鳴き声について語っている。
煙草を口から離し、俺は恵梨に語りかけた。
「恵梨、そろそろ良いやろ」
「何がですか!?」
俺は煙草を灰皿に押し付けて火を消した。
「今度は俺が数えたる、羊」