第1章 1
「奇遇ですね、私も眠れないんです」
「─────は?」
俺は思わず聞き返した。
だってさっきの、あの、眠そうな声は何や?
「恵梨、今まで寝てたんやないんか?」
「なかなか眠れなくて、ゴロゴロしてたんです」
「だって、さっきあんなに眠そうな声やったやん」
「そんな、まさかこんな時間に電話が来ると思ってなかったから、ビックリしたんですよ」
・・・・・・ビックリして、あんな声が出るもんなんか、女って・・・。
俺が何も言えずに黙っていると、恵梨が口を開いた。
「んー、眠れないなら仕方ないですねぇ。───私が羊を数えてあげましょうか」
やれやれ、とでも言うように溜め息をついてから、恵梨は楽しそうに言った。
「羊ー?んなんじゃ、眠くならんやろ」
「ka-yuさん、羊を馬鹿にしたらいけませんよー?」
恵梨が笑いを含んだ声で言う。
───羊を数える。
古典的な方法だが、まぁ、せっかく恵梨が数えてくれるんや。
効く、効かないは別として、やってもらうか。