第1章 1
羊を30匹まで数えた時、いつの間にか恵梨の声が聞こえなくなっていた。
「・・・恵梨、寝たんか?」
小さく、控え目に声をかける。
ケータイから聞こえてくる音に耳をすましてみても、何も聞こえなくなっていた。
(・・・寝たんやな・・・)
俺は終話ボタンを押して電話を切ろうとした。
その時。
「まだ起きてますよ~」
恵梨の声が聞こえた。
「あはは、ka-yuさんの声に聞き入っちゃってました・・・」
少しだけ舌ったらずな口調で、恵梨が笑っているような雰囲気をまとって言う。
「何や、まだ眠っとらんかったんか」
「だって、ka-yuさんの声、すっごく落ち着くんですもん、聞き入ってました。・・・ka-yuさんも、CD出せば良いのに・・・」
「・・・・・・yasuに負けるからイヤや」
「・・・えー・・・。・・・でも、私はka-yuさんの声、好きですよ。さっき電話がかかってきた時も、すぐ分かりました」
─────マネージャーだから当たり前やん、と言ってしまえばそれで終わりだろう。
でも恵梨の言葉はそういう感じではない、何か柔らかくて温かな感じがしたんや。
大して分かりやすい声でもない俺の声を、『好き』と言ってくれた恵梨。
俺は少しだけ顔を赤くしてから、恵梨に言った。
「・・・続き、行くで」