第1章 1
俺の声に合わせて、頭の中で羊が柵を飛び越える。
40匹・・・60匹・・・90匹・・・・・・。
「・・・羊が、100匹。
・・・・・・どうや、恵梨、起きとるか?」
俺は電話の向こうの恵梨に問いかけた。
───返事はない。
耳をすましてみると、小さく、微かに恵梨の寝息が聞こえる。
それを聞くと、俺はふーっと息を吐いた。
「やっと、寝たか」
終話ボタンを押して電話を切ろうとして、俺は動きを止めた。
そしてもう一度ケータイを耳に当てた。
「恵梨、ホンマに寝とるんか?」
─────返事はない。
寝息しか聞こえてこない電話に、俺はしばらく迷ってから小さく呟いた。
「・・・・・・・・・俺も、好きやで?恵梨・・・おやすみ」