戦国源氏物語-イケメン戦国と源氏物語の融合-〈改訂中〉
第37章 浮舟の巻―信長ノ宮と秀吉ノ君-<R18>
「それは気の毒にな。俺も知ったばかりだが、表に出す話しでないし、悔やみの言葉もだから控えていたのだ」
信長の言葉に秀吉は沈黙で返し、やがて言った。
「信長様の慰めになるかもしれないと思った娘でした。二条の院のかた(中君)とも血筋を同じくする者でした。ですからあちらでお目にかかる事があったかもしれません。おからだのよろしくないとの由、どうぞ御身お大切になさってください」
そう言い残すと秀吉は帰って行った。
横川(よかわ)には徳の高い僧都がおり、八十を過ぎた母と五十を過ぎた妹がいて、二人は既に髪をおろし小野にて庵を結んでいた。
その女人たちは長谷の観音に願を掛けており、その祈りのため出掛けたものの、参詣を済ませて帰る途中で母尼の具合が悪くなり、宇治にて宿をとることとなった。
横川の僧都も宇治へ参ったところ、何か白いぼんやりしたものが暗い木陰にあるように思えた。
松明を近付けるとその木陰には黒く長い髪を持つ、白い衣を着たおんながさめざめと泣いていたのだった。
放っておくことも出来ず、そのおんなを宇治の借りた邸へ運び入れるが、息もようようにしておらずいつ死んでもおかしくないような様子に、僧都には見えた。
その拾った娘の事を知った僧都の妹尼が目を輝かせた。
「長谷の観音様には、亡くなった娘の身代わりになる娘が欲しいと長年祈ってきたのです。そのかたは観音様が、私の願いを叶えてくださったのです」
そして妹尼は熱心に娘の世話をし、数日後、娘はやっと目を開けるまで回復出来た。
「貴女はどなた?具合はどうですか?何かしゃべってくれませんか?」
妹尼はいろいろ話し掛けるが、娘はだまってそのまま目を閉じた。