戦国源氏物語-イケメン戦国と源氏物語の融合-〈改訂中〉
第31章 八ノ宮大君の巻―佐助ノ君・幸村ノ宮-<R18>
「幸村から恨まれてます。俺が姫君たちのお世話を、と八ノ宮から託された事を知り、俺に姫との仲立ちをして欲しいそうで、でも文を送っても返事が来ない、とせっついてくるのです。確かに色好みの宮ですが、こちらの姫にはそういった心を見せず、誠実に応対したいと望んでいるのです。ところで幸村へのお返事はどなたがしているのですか?」
佐助の問いに舞は筆を執る。
雪深き山の桟(かけはし)君ならで 又踏み通う跡を見ぬかな
佐助以外に文を遣わした事はない、と舞は歌を佐助へ差し出す。
佐助はそれを見て返す。
氷(つらら)閉じ駒踏みしだく山川を 案内(しるべ)しがてら先ず(まず)や渡らん
誠実な態度をとりつつ、実は邪な心を持つ佐助の歌に、世慣れぬ舞は戸惑う。
八ノ宮の思い出話しをしつつも雪が降り、都へ戻るのに難儀する、と供の者が知らせる為、佐助は宇治を後にする。
「人の来ない住まいが都にはあります。もし都へ移る心が有るならお世話します」
佐助が姫君たちにそのように告げると、女房たちは「都へ行ける」とさざめき、むしろ姫君たちは女房のみっともない嬌声にまゆをひそめた。
冬が過ぎ、春から初夏を迎えた頃、佐助は宇治なら涼しいだろうと向かった。
故八ノ宮の住まいへ着くと西の廂へ入るが、ちょうど姫君たちが涼んでおり、佐助が来た事で東面へ移動するところだった。
佐助は障子の破れがある事を知っており、そっと片目をその破れへ沿わせると、立ち姿も優美で愛らしい姫が移動してゆく。
『この姫はいつぞやの琵琶の姫だ』
佐助は即座に気付き、そして舞の膝行る(いざる)姿を次に目にした。