戦国源氏物語-イケメン戦国と源氏物語の融合-〈改訂中〉
第31章 八ノ宮大君の巻―佐助ノ君・幸村ノ宮-<R18>
「反故された文を、この袋に縫い込んでおりました。柏木様がお亡くなりになる前、お下げ渡しになられた御文です。女三ノ宮様へお渡しするよう仕りましたが、渡せずにおりまして、佐助様にお渡しいたします」
佐助はその袋を受け取り、弁の君に他言しないよう、何度も申し渡す。
「この事を他に知る者はいるのか?絶対これは他の者には言わないように」
弁の君が下がると佐助は朝食を摂り、八ノ宮に暇(いとま)乞いをする。
「昨日は宮中の御物忌みに当たりましたが、今日はそちらもお明きになると思います。改めて、また紅葉が散る前に伺いたく存じます」
佐助は都へ戻ると、弁の君から渡された袋の中を開ける。
その中には薄様が数枚、それは母宮、女三ノ宮の手蹟による返しだった。
それからもうひとつ、陸奥紙が数枚、これが柏木からの文だった。
その白い陸奥紙を紐解くと、柏木の流麗な文字が現れる。
『病は日に日に重くなり、もう生きていられない。しかし宮様にただ、逢いたい』
そんな事が書かれた端に歌が書かれている。
目の前に此世を背く君よりも よそに別るる魂(たま)ぞ悲しき
『無事の御誕生おめでとうございます』
と歌に続けて、佐助が産まれた事を祝う言葉と歌が書かれていた。
命あらばそれとも見まし人知れず 岩根に留めし松の生い末
呆然とし、佐助はどうして良いかわからず、女三ノ宮の許へ行くが、佐助の姿を見ると『女が真名を読むのは恥ずかしい』と経典を隠す、幼くおっとりとした様子にこの母宮は何もわかっていない、と知り、この事について一言も口に出せなかった。