戦国源氏物語-イケメン戦国と源氏物語の融合-〈改訂中〉
第31章 八ノ宮大君の巻―佐助ノ君・幸村ノ宮-<R18>
「いよいよご最期という時に、権大納言様が私に仰せ置かれた事がございました」
また一度口を閉ざし、そして弁の君は言う。
「その先を、と思し召しでしたら、またいずれの折に残らず申し上げる事に致します」
佐助は呆然とする。
弁の君の言った事はまさしく自分の出生について、何か知っているのだと気付き、更に詳しく聞きたくなるのだが、姫君たちや他の女房たちのいる手前、それ以上弁の君と二人で話す事も出来なかった。
「思い当たる事はそれといってないけれど、過ぎし世の事というだけで何やら胸に沁みてくるな。そのお話しはいずれ伺う事にしよう」
佐助は帰ろうとするものの、霧は更に深く、そして八ノ宮の籠る宇治山の寺の鐘が夜明けの勤行の時を知らせていた。
つましく暮らす八ノ宮と一緒の姫君たちはどんな心で過ごしているのだろう、佐助は推量して詠う。
朝ぼらけ家路も見えず尋ね来(こ)し 槇の尾山は霧籠めてけり
御簾の内から舞の、優雅で気品のある声が応える。
雲のいる峰の嶮路(かけじ)を秋霧の いとど隔つる頃にもあるかな
佐助は自身に沸き上がる感じた事の無い感情がどういったものかわからないまま、言葉を口にして姫君たちの前を下がる。
「お言葉をいただいてかえって物思いの種が増えたようです。いずれもっと親しくなってから、いろいろ伝えたいと存じます。とは言っても俺は世の色好みとは違い、世間並のおとこと同じと思わないでください」