戦国源氏物語-イケメン戦国と源氏物語の融合-〈改訂中〉
第31章 八ノ宮大君の巻―佐助ノ君・幸村ノ宮-<R18>
「確かに不思議とかぐわしい香りが漂ってくるとは思ったのですけれど、まさか佐助様がお見えになられていたとは、何という事でしょう…」
女房もこういった訪問の対応の仕方を知らず、そこで佐助はさっさと透垣の内へ入り簀子(すのこ)の端へ座り、そして簀子に座らされている事にちくりと抗議する。
「このように霧深き険阻(けんそ)な山路を参りました志を、さすがにお分かりいただけるかと思うのですが」
誰も返答出来ず、すると誰かが「弁の君を起こしてきましょうか」と言い、他の者がその女房を起こしに行き、しばらくしてその女房が起きてきた。
「あらまぁ、これでは失礼ですよ。どうして廂の内にお入れしないのですか」
と身分高き人を簀子に座らせている事を咎め(とがめ)、急いで席を作り直し挨拶する。
その手馴れた様子に佐助は安堵する。
ところがその弁の君という古女房は、佐助を見てほろほろと涙を流し、しばらくしてようやく口を開く。
「差し出がましい事ですが、忍んでおりました哀れなその往古(かみ)の御物語がございます。いつか機会がありましたらお耳にお入れしたいと祈りつつ、それがこのように叶いました。何もまだお話ししておりませんのに、ただただ嬉しく涙ばかり溢れお話し申し上げる事が出来そうにありません」
そして弁の君は言葉を続ける。
「今の時、按察使(あぜち)の大納言と仰せ遊ばすおかたの兄君がいらっしゃいました。右衛門の督としてお亡くなりになったかたの事は、お噂としてお聞きになられた事があるかもしれません。その右衛門の督様、お亡くなりになる時は権大納言になられた最期の時、御乳母としてお仕えしていたのは、この弁の母でございました。母と共に私も朝夕お仕えしておりまして、数ならぬ身でありますが人にお話し出来ぬ事をそっとお漏らしになる事がありました」
弁の君は大きく息を吐き、話しを続ける。