戦国源氏物語-イケメン戦国と源氏物語の融合-〈改訂中〉
第29章 紫の巻―義元中将-<R18>
俺は扇で口元を隠しながら、朝顔に求愛をしている事を婉曲に伝える。
「そうですわね、いつもながら、美しいお歌をちょうだいしておりますわ。でも、今宵のような美しい宵には、昔がしのばれますこと」
相変わらずの女房からの返事に、俺はしつこく朝顔から直接話してもらえないのか、と話しを持って行くがしかし、結局はこうなる。
「振り返りますと、全てが夢のようでございますわね」
何度話しを持っていっても、結局は過去の感懐ばかり述べてくる。
「朝顔様、はっきり伺いましょう。貴女は俺と添うてくださる気はお有りでは無いですか?」
とうとう俺ははっきり聞く。
遠回しに断られていても面倒になったのだ。
俺の直接的な質問に、御簾の中では動揺したように衣擦れの音がし、中でひそひそと話す声がしばらくして、返事が無いまま俺は待つ。
ようやく、しかしおんなたちには刹那と思える時を経て、今迄と違うおんなの声が俺の耳に聞こえてきた。
「義元様、貴方様と私の間には、恋という感情は幻でしかなかったのですわ」
朝顔の声は凛として透き通った、おんなとしては情感のあまりない声音だった。
朝顔はきっぱりと俺との間に恋愛感情は有り得ない、と自身の口で伝えてきた。
つれなさの昔に懲りぬ我が心 人のつらさの添えてつらけれ
俺が口に昇らせた歌は、朝顔が俺の心に寄りそう事は無いのか。
それなら俺は俺で自制をしなければならない、と詠わせる。