戦国源氏物語-イケメン戦国と源氏物語の融合-〈改訂中〉
第29章 紫の巻―義元中将-<R18>
しかしながら、話しは全く進まず、義元中将はこれ以上の事は出来ず、去る。
ある朝、義元中将は朝顔の花を摘み取り、それに文を付けて贈る。
見し折をつゆ忘られぬ朝顔の 花の盛りは過ぎやしぬらん
長い年月、貴女を思い続けてきた俺を哀れと思って欲しい、そんな思いを載せた歌に、返事があった。
秋果てて霧の籬(まがき)に結ぼおれ あるかなきかに映る朝顔
今迄の思いや、過ぎた年月を話せる相手がいらした、義元中将はそんな気持ちになる。
勿論義元中将は恋の歌を贈ったつもりだったが、最初からそれについては拒否され、しかしながらこの歌を見た時、長い年月をこうして女房を通しながらも、そのやり取りしている間に起きた事象を、目線を同じくして話せる人を捕まえたくなり、それが出来る人を見付けた、と思い、それからしばらく、義元中将は狂ったように朝顔の前斎院の許を訪れる事になる。
それは傍から見れば、ただの求愛だろう。
でも、義元中将にはそうではなく、話し相手を欲していたのだ。
その時の事柄を腹をわって話し合える人で、だけれど、舞がけして話し相手にならない訳ではない。
しかしどちらかと言うと、舞には教えるという気持ちであり、藤壺の女院とは冷泉帝を通しての仲間であり、日々の事を話す相手にはならない。
だからこそ、年も近い朝顔が、積もった年月を話しあうのにちょうど良い、のだ。
婀娜めいた心は無い、と何度も伝えるものの、渡す歌にはどうしても恋心がにじむのを敏感に前斎院に気付かれ、だから返事は来ないし、桃園の宮邸へ会いに行っても、女房を介しての対話となるのがずっと続く。
最後まで、前斎院は義元中将に触れさせる事は、無かった。