戦国源氏物語-イケメン戦国と源氏物語の融合-〈改訂中〉
第21章 明石の巻―謙信中将-<R18>
名器と言って良い琴の琴を形見に寄越す、とは、やはり並々ならぬ想いが舞にあるのだが、舞は自分の矜持が邪魔をして、わかっていてもわかりたくないと否定させてしまっており、それがこの歌に現れていた。
等閑(なおざり)の頼りを掛けし一言に 尽きせぬ音(ね)のみ忍び泣くらん
それに返す謙信中将。
逢うまでの形見と契る中の緒の 調べはそうと違えまじきを
そして謙信中将は都へ出立する。
入道が立派な帰り支度を整えてくれ、謙信中将から一緒に戻る下男に至るまで、鄙の匂いの全くない衣装をふんだんに用意していた。
寄る波に裁つ手は濡れて旅衣 潮垂れしとや人の厭わん
謙信中将の狩衣の上に小さく結んだ文が置いてあり、舞が縫ってくれたのだと知り、謙信中将は着替えてそれまで着ていたものを舞へ送る。
逢うことの日数隔てんその仲の 衣ぞ互いの心とて見よ
東へ向かって謙信中将達は進んでいく。
謙信中将が去り、舞は嘆きが深く寝込んでしまい、妻が入道に、入道の日ごろの願いの為、謙信中将に娘をやって結果こんな想いをさせるなら、謙信中将に娘をやるのではなかったです、と、くどくど言うのを怒り出し、そんな事を言う暇があったら、薬湯を飲ませ妊娠しているからだを落ち着かせなさい、と入道も言い返す次第だった。
そんな明石の様子を勿論知らない謙信中将は、一人都に戻り、いつか産まれる手駒を待ちながら日々を送る。
そして、待望の女児が産まれた、と連絡が入り、謙信中将は乳母を早速明石へ遣わせた。