戦国源氏物語-イケメン戦国と源氏物語の融合-〈改訂中〉
第21章 明石の巻―謙信中将-<R18>
ある日の夜、月を見ながら謙信中将は琴の琴をつまびく。
特に何かを弾くのではなく、ただ掻き鳴らすだけだが、謙信中将が少し着崩れた直衣姿で琴を鳴らす姿が月光に照らされる姿は大層美しく、その姿で弾じる「広陵散(こうりょうさん)」は海辺の邸から、娘やその母親が高潮を避けて住む高台の邸へと音が広がっていた。
松が風によって鳴る音に混じり、でもはっきり聞こえてくる琴の琴の美しい、明石では聞く事の出来ぬ音色と曲に、娘はただただため息をつき、こんな凄腕を持つかたに父親である入道は自分を捧げるつもりなのか、田舎育ちで受領風情の自分では都の女人がたとは比べものにならない程たよりない身分に情けなく、益々謙信中将と交わるとは思えなかった。
勤行に励んでいた入道もいつの間にか謙信中将の側に控えており、演奏が終わるのを待って声を掛けた。
「いや、まったく、大層お見事としか申し上げる術はございません。捨てた都の生活を忍ばせ懐かしく思い起こしました。また、後の世の往生安楽も斯くやと思わせる仕儀(しぎ)でございました」
「そこまでの演奏ではないが、気に入ってもらえたなら何よりだ」
謙信中将は短く返答すると、今後はお耳汚しかもしれませぬが、と入道が琵琶を弾じる。
聞いた事の無い珍しい曲を数曲弾じ、枯れた中にも艶やかな響きのある見事な腕だった。
ふと、どこかで鳴く水鶏(くいな)の声を聞いて、何の気に無しに謙信中将は言った。
「筝の琴は、恋を知ったおんなが何気なくぼんわりと弾じる姿はいいものだな」
そう。
入道はこの言葉にようやく突破口を見付ける。
謙信中将は、その日の夜のたおやかな月の光と、海からの潮を含んだ風の爽やかな様子に、本当に特に思いつきもなく言っただけだったのだが…娘の運命が動き出す。
入道が居住まいを直し、何か語ろうと口を開いた。