戦国源氏物語-イケメン戦国と源氏物語の融合-〈改訂中〉
第21章 明石の巻―謙信中将-<R18>
すると従者の一人、明石出身の良清(よしきよ)が謙信中将に教えた。
「あの入道には娘が一人います。なんでも噂によると大層大切に育てており、中央貴族と結婚させたいと野望を思っておるようです」
謙信中将はそれを聞いて、まさか自分とその娘を結婚させたいと思っているのでは、と思わなくもなく、そしてその考えはまさしく的中していた事を、謙信中将はまだ知らない。
ある日、入道が謙信中将へご機嫌伺いに来、そのまま珍しく謙信中将の前で会話となった。
近衛(このえ)の中将まで官位を勧めた人だけあって、人品卑しからず、また、もともとの家柄も相当なものだったらしく、帝に側近くいた者でないと知らぬ事柄も知っていた。
良清によると、入道の娘は常日頃、その辺のおとこの物になるくらいなら、父親から『つまらぬおとこの物になるくらいなら、海へ飛び込み龍神の后になれ』と言われているらしい。
たかだか受領の娘風情で、つまらぬおとこの物になるくらいなら龍神の后になれ、とは、どれだけ素晴らしい娘なのか、謙信中将は実は娘に対し興味が湧いていた。
既に謙信中将は、『俺が夢を見たのは、この娘であるに違いない』と、夢を見た事、明石までの旅が順調だった事、など鑑み、この娘と何かしら前世からの約束事があって呼ばれたのだという確信に変えていたが、受領の娘を中央貴族の自分から求める訳には参らぬ、入道から話しをしてもらわなければ、という矜持も有り、謙信中将からは話しは出せない。
そんな状況のまま、春が訪れ、夏を迎える。
衣替えの様々な支度は、入道が行うが、その全てが趣向を凝らしたもので、都でもなかなかお目にかかれないような贅沢なものばかりに、謙信中将以外の供の者たちは明石でもこれだけの支度が出来るのか、と、目を丸くしていた。
明石の海はのどやかに、波が波打ち際に打ち寄せる様を繰り返し、木々も青々と育ち、空も青く雲は対照的にどこまでも白く、穏やかな日々が続き、明石の自然の素晴らしさを堪能する謙信中将であった。