戦国源氏物語-イケメン戦国と源氏物語の融合-〈改訂中〉
第17章 梅枝の巻―番外編-
翌日、私の明石の娘の裳着の式が、六条院の秋の町で行われた。
信長中宮は勝気な強い光を持つ赤い瞳が印象的なかた、と女房から聞いているわ。
私の娘の腰結の役を引き受けてくださった事に改めて御礼を申し伝える。
「少しでもよくしたいという親心から、この度は宮中からご退室いただき、腰結の役をお受けいただき、心から感謝致します」
愛しい明石の娘は、信長中宮が腰結の役を受けてくださったのを機に、こどもからおとなへ、そしてやがて次の帝をなるかたへ入内する事となる。
実際の母親の明石の光秀ぎみはこの、裳着の式を見る事が叶わない。
さすがに中宮がいらっしゃる席に、身分低い母親を隣席させる訳には参らず、かと言って女房の一人にまぎわらす事は光秀ぎみの矜持からしてお断わりなさるでしょう。
代わりに継母である家康ぎみが母親としてかいがいしく娘の裳着の式の様子を手伝い、美しく成長した娘の姿を一番愛おしく感慨深く、ご覧になっていたように思えたわ。
裳着の式の後、秋の町で御礼の宴の席が設けられ、饗応の楽の音が響き渡る。
政宗兵部卿の宮が酔った声で読まれた。
鶯の声に尚々憧れん 心染め(しめ)つる花の辺りぞ
私は応える。
色も香も伝染るばかりに此の春は 花咲く宿を離れず(かれず)もあらなん
人々は笑顔を見せる。
その笑顔は泰平の世に必要な力となりうる麗しき華。
幸福ならば、それで、良いでしょう?
〈梅枝の巻 終〉