戦国源氏物語-イケメン戦国と源氏物語の融合-〈改訂中〉
第17章 梅枝の巻―番外編-
政宗兵部卿の宮の語りは続く。
「そうそう、大胆という言葉がぴったりなのは『梅花』だな。当世風できらきらしているような香りだ。貴女の最愛の家康ぎみがどのような方なのか、そんな事を知ってしまったようで、こっちがどきりとしたくらいだ」
「ふふ、そうなんですね」
「しかし…貴女の『侍従』は静かで落ち着いて、忍びやかな情感が、秋草の色香となってふくいくと匂い渡るような…そんな忍びやかな殿方の美を感じさせ、それを調香した貴女が誰よりもおとこというものを知っている、となる、かな?」
政宗兵部卿の宮は、あぐらをかいて頬杖をつき、こちらを見て、片頬にいたずらっぽい笑みを浮かべる。
「本質は往々にして擬態でありますからね。慎ましやかを演じて、殿方の美を醸し出せるよう、普段の品に気を付ければいいのですよ」
私は扇をぱらりと開いて、にっこり微笑む。
私の答えに、訳がわからない、と言った表情をする政宗兵部卿の宮。
ええ、わからなくて良いのよ。
おんなには殿方にはわからない顔がいくつもあるもの。
家康ぎみにだって、私の全てはお見せしてないわ。
そんな私達の、香りから人柄を探る会話の間に、燻らせた香りの粒は抜け殻となり、その香りは既にどこかへ去ってしまった。
夕暮れから夜への匂いが包む中、私達は翌日に迎える明石の娘の裳着の式を想い、二人で静かに杯を交わし、残り香すら残さなかった『百歩香』を、女房に片付けさせた。
夜はゆっくりと更け、そして、大切に育てた明石の娘がいよいよ少女から娘へと代わる時が来る。