第17章 梅枝の巻―番外編－

そう、秀吉ぎみは私を愛しているのはわかっている。

でも秀吉ぎみの矜持が私への愛より強く、あの人は私より自分を選んだの。

だから、私達の間には、残念だけどこれからも何もないのよ。

秀吉ぎみの整えられた『黒方』は大層見事で、政宗の言を待たずに自分の敗北がはっきりわかったわ。

そして紫の上こと家康からは、冬の『黒方』、秋の『侍従』、そして春の『梅花』の三種が届いたの。

曲がりなりにも明石の君から奪うように預かり、でも慈しみを全身に持って育てた娘の入内だもの。

並々ならぬ想いを持ってこれらを作ったのでしょう。

家康は、はちみつ色のふわふわした髪の毛を持ち、美しい翡翠色の瞳をした、空気を張りつめたものにするような凛とした雰囲気を醸し出すかた。

でも親しくなったら、とっても甘えん坊で、その差が大きくて心がときめくかたなのよ。

私は初めて彼を見た時、心底ときめいたわ。

絶対彼を自分のものにしたい、と、ただ一人思ったかた。

私が一番信頼し、愛するかた、なの。

そんな家康の作った『梅花』は、沈の香りを強く聞かせた特色有る香り。

「ほう…今の時分、吹く風と友になる香りは、この『梅花』に及くはなし、だな」

判者、政宗兵部卿の宮からこんな発言があった。

『梅花』は家康が作ったものが優れていると、おっしゃったわ。