第2章 第1章 旅立ちまで
「嫌よっ!どうして朱里が...っ!!」
泣き崩れるようにして顔を覆った雪絵を見た秋紀は何とも言えない葛藤と戦っていた。
もちろん、国の決まりに従うならば朱里を国に任せ、1人前の狩人になってもらうのがいいだろう。
それは秋紀一家始まって以来の名誉であり、後世に伝えれる素晴らしいことだ。
それは重々自覚していた。
しかし、それは国のため、家のためでしかない。
雪絵や秋紀自身の思いを尊重すれば朱里は大切な愛娘であり、ずっとそばにいて欲しい存在なのだ。
つまり、手放したくないのだ。
「...なぁ、雪絵。」
「っ、何?」
「朱里のこと、黙ってるか。」
秋紀のその言葉に雪絵は伏せていた顔を勢いよく上げた。
その表情は喜びと安堵、そして不安が浮かんでいた。