第2章 第1章 旅立ちまで
雪絵の脳裏にはこの事件がチラついていた。
今は表立った虐殺や殺しなどはしないだろう。
ただ、朱里が能力を持っていると国が知ってしまったら。
それを知りながら隠していたら。
その時はどうなるかなど分からなかった。
それが余計怖いのだ。
朱里の目の前で自分たちが殺されるような事があったら。
朱里は自分を恨み、国を恨み、生きることを諦めるかもしれない。
それが、それだけが怖かったのだ。
「怖いよ、秋紀...っ!」
「雪絵...俺も怖い。ただ、それよりも朱里といたいんだ。」
秋紀はきつく唇を噛み締めた。
血が出ようと構わずに。
雪絵は秋紀に抱きついてずっと泣いていた。
寝ることも忘れ、朱里を思い、ただ泣いていた。