第1章 偉大な海賊
「声だけで分かってもらえるとは光栄だな」
「こんな夜中まで起きてる人はあなたくらいよ、どうせまた飲んでたんでしょ」
わざと顔は見ずに言う。
「まあな。だがちと語弊がある。君も起きてる」
「・・・今日だけよ。たまたま寝付けなくて」
「嘘だね。毎日来てる」
そう言ってジャックは酒を煽った。
「だから何よ?知ってるのなら一人の時間を邪魔しないでもらえるかしら」
「・・・後悔してるか?」
「・・・え?」
「トルトゥーガで得体の知れない酒臭い海賊に口説き落とされて船に乗っちまったこと」
「別に口説き落とされてなんかないわ。・・・父は船乗りだった。興味があったの」
ジャックは驚いたような顔をして、肩をすくめた。
「それは初耳だな。」
「聞かれなかったから。
どうしてそんなこと聞くの?・・・後悔なんて」
「俺は航海士としての君の腕を買ってる。おまけに作る飯はうまいし掃除はできるし話も面白い。おかげでここ最近の船員達はみんな浮き足立ってる」
「・・・父の影響で昔から海が好きだった。それに母は物書きだったから家に本は腐るほどあったし、その両親が早死にして家事をせざるを得なくなった。それだけよ。」
「まぁつまり、君はこの船に必要だ」
ジャックは私の目をじっと見つめて言った。
その視線に耐えきれず、私は思わず目を逸らした。
「だからトルトゥーガから攫ったってわけ?」
「ほら、やっぱり根に持ってる」
ジャックはにやりと笑った。本当に掴み所がない男だ。
「別に根に持ってなんか・・・!
・・・まあでも不満はある。この機会に言わせて貰うわ」
「どうぞ」
「・・確かにホイホイ着いていった私も悪かったわ。それは認める。
でも、宝は!?冒険は!?呪いは、伝説は!?聞いた話と全然違うじゃない!」
「それは酒場の飲んだくれに聞いた話だろ?俺はそんなこと言っちゃいない」
「でも全部、キャプテン・ジャック・スパロウと言えば、で出てきた話よ」
「噂ってのは信用できないもんさ。
それに、心躍る冒険は四六時中起きるもんじゃない。だが運がよければ今にでも起きる」
「私がこの船に乗ってもう1ヶ月、期待してた出来事なんて一つも起きてない。船長は酒飲んで寝てるだけ、たまに港に着いたと思ったら食料の買い出しと船長の女遊び。生活を捨ててこんな船に乗った私がバカだった」
